イプセン「人民の敵」(毛利三彌訳『イプセン戯曲選集 現代劇全作品』東海大学出版局、1997年)の第3回でした。先月は3、4幕を読みました。今月は4幕をもう一度読み、それから5幕を読みました。参加者は10名、初めての参加者はうち1名でした。
4幕は町民集会の場。この集会で町の温泉汚染についてストックマン博士は告発するつもりだったのだが、町長である兄や人民新報の記者に煽動されて博士を非難する住民たちの態度に逆上し、彼は激しい大衆批判を演説で行う。住民たちはストックマン博士の演説に反発し、博士を「人民の敵」と呼び、集会の場から追い出してしまう。
5幕は舞台はストックマン博士の家。 ストックマン博士は温泉施設を解雇され、彼の長女も教師の職を失う。怒りと失望で博士はこの町を捨て、新世界に旅立つことを一度は決意する。博士の義父のモルテン・ヒールが家を訪れ、博士の妻である娘と孫たちに残すはずだった遺産全額を使って、ストックマン博士が汚染を告発しようとした温泉施設の株を購入したと告げる。もしこの株が紙切れになるのを防ぎたいのなら、温泉施設の危険を告発しようなどとは考えず、その安全を訴えろという脅迫を暗に行っているのである。しかし義父によるこの追い打ちが博士の心を逆に奮い立たせた。博士はこの町に踏みとどまり、住民の心に自由な精神を伝えるための闘争を続けることを決意する。
現在の日本の状況にもあてはまるような、目先の我欲に支配され、それを煽動するマスコミに踊らされたまま本質を見ようとしない無責任な民衆のあり方への風刺が作品の主題となています。 しかしそうした民衆に立ち向かうストックマン博士は、この作品では必ずしも正義の英雄として描かれているわけではありません。彼の感情の振り幅と思い込みの激しさは、ちょっと常軌を逸しているところもあり、その異常さが作品にある種の喜劇的色彩を与えているように感じました。
次回の古典戯曲を読む会@東京は、4/21(土)19時〜21時です。取り上げる戯曲はチェーホフの一幕劇『熊』です。使用するテキストは、牧原純、福田善之訳『結婚、結婚、結婚!』群像社、2006年。 htl.li/9KbxN
詳細はまた改めて連絡します。
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