2017年4月22日(土)に行われた第114回古典戯曲を読む会@東京では、イタリア語翻訳者・通訳の石川若枝さんのガイドで、イタリアのノーベル賞作家、ダリオ・フォの『アナーキストの事故死』を読みました。
ダリオ・フォには、中世演劇を題材とした『ミステーロ・ブッフォ(滑稽聖史劇)』という代表作があり、コメディ・フランセーズでこの公演を観て以来、ずっと関心を持っていました。またコメディ・フランセーズの俳優、ギヨーム・ガリエンヌがフォの一人芝居『聖フランチェスコ』を演じたのを東京で観て、この作品にも私は深く感銘を受けました。
日本ではフォはどちらかというと左翼政治運動に関わった政治的な劇作家として捉えられているように感じられます(イタリアでもそうかもしれません)。今回翻訳の使用を許可頂いた高田和文先生の論文でもそういった側面が強調されていましたが、私がフォに惹かれるのは「闘う演劇人」として政治的闘争を厭わなかったことだけでなく、彼の中世演劇観に大いに共感することができたからです。
フォの作品に観られる中世劇および中世の理解は私にとっては極めて説得力の高いものであり、『ミステーロ・ブッフォ』は中世劇の本質を十全に生かしつつ、それを1960年代の社会政治的な文脈で見事に蘇らせた作品だと思いました。そして『ミステーロ・ブッフォ』はそのタイトルから明らかであるように、中世劇のみならず、マヤコフスキーの革命祝祭劇『ミステリヤ・ブッフ』にも呼応した作品です。
私が西欧の中世劇に関心を持つことにどんな意味があるのか、この問への答えがフォの『ミステーロ・ブッフォ』にはありそうな気がします。フランス語訳は持っていますが、いつか原文でも読んでみたい戯曲です。
1950年代からおよそ60年にわたる演劇人としてのキャリアを持つフォの演劇活動の豊穣さは、もちろん『ミステーロ・ブッフォ』という中世を題材にした傑作一作に集約できるものではありません。
今回、石川さんが選んだ『アナーキストの死』は、左翼・右翼過激派の闘争、政府による左翼弾圧が激しく、テロで多くの死者が出たイタリア1970年代の現実を反映した戯曲です。フォは警察の取り調べのなかで、謀殺された可能性が高いと考えられているあるアナーキストの「事故死」(事故死というより偶発的な事故を装った殺害)事件を題材に、この事件を道化によるファルス的なスタイルで告発します。馬鹿馬鹿しいナンセンスな言葉の奔流、ドタバタ芝居のスタイルによる笑いは、この作品のなかで、権力と右翼の暴力(実際、死人が出ています)に対峙する張り詰めた緊張感とともに、提示されています。
主人公である「道化」的狂人=容疑者の役柄は、ダリオ・フォー自身が演じました。大衆的喜劇役者として圧倒的な人気を誇ったというフォーの語り芸は、youtubeの映像でも確認することができます。
来月は『アナーキストの事故死』の第二幕、後半を読みます。上演映像などもできれば合わせて観たいと考えています。
フォは日本では知名度が高くないので、参加者が集まるかどうか心配でしたが、今月は20名の参加者を得ることができました。来月も多くの方の参加をお待ちしております。
(古典戯曲を読む会@東京 世話役 片山幹生)
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